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『ゴルゴ13』の歴史:連載57年を超える超長期シリーズの軌跡

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『ゴルゴ13(GOLGO 13)』は、さいとう・たかを(原作・作画)によって創造された、超一流のスナイパー(狙撃手)デューク東郷を主人公とする劇画(劇画は漫画の一種で、より写実的で大人向けの表現を特徴とする)作品です。
この作品は、その連載期間と発行部数において、日本の漫画史に特筆すべき記録を残しています。
1. 誕生と確立期(1968年〜1980年代)
連載開始 (1968年): 『ゴルゴ13』は、**小学館の『ビッグコミック』**にて連載が開始されました。当時の劇画ブームの中心的な作品として人気を集めます。
主人公像の確立: 主人公デューク東郷は、国籍、本名、過去のすべてが謎に包まれたプロの暗殺者として描かれます。**「依頼を受けると必ず遂行する」「背後をとらせない」「私情を挟まない」**という徹底したプロフェッショナリズムが、一貫して作品の核となります。
初期のスタイル: 初期のエピソードでは、冷戦下の国際情勢や、巨大組織の陰謀など、時事性とハードボイルドな描写が特徴的でした。
2. 独自の制作体制:さいとう・プロ(1970年代〜現在)
『ゴルゴ13』の特異な歴史を支えているのが、作者であるさいとう・たかをが確立した**「分業制」**の制作体制です。
劇画制作システムの確立: さいとう・たかをは、自身のプロダクションである**「さいとう・プロ」**内で、脚本(設定、ストーリー)、作画(下書き、ペン入れ、背景)、仕上げを完全に分業化しました。
作画とリサーチの徹底: その分業体制により、兵器や建築物、世界各地の風景といった詳細な描写について徹底したリサーチが可能となり、作品のリアリティとクオリティが維持されました。
「脚本会議」: ストーリーは、プロの脚本家チームとの会議を経て制作され、膨大な数のエピソードを安定して供給する基盤となりました。
3. 歴史的記録の達成と国際性(1990年代〜2010年代)
連載が進むにつれて、『ゴルゴ13』は漫画界における数々の金字塔を打ち立てていきました。
超長期連載: 2021年に単行本が201巻に達し、ギネス世界記録に認定されていた**『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の記録を抜き、「最も発行巻数が多い単一漫画シリーズ」**としてギネス世界記録に認定されました。
国際的な題材: 描かれる舞台は世界各地に広がり、各国の政治、経済、軍事問題が題材とされます。作品の国際的なテーマは、連載期間を通じて日本の漫画の中でも特異な立ち位置を占めました。
時事性との連携: 9.11同時多発テロや金融危機など、現実の国際ニュースや事件をモチーフにしたエピソードが多く描かれ、読者は作品を通じて現代史の裏側にあるかもしれない陰謀劇を楽しむことができました。
4. さいとう・たかをの逝去と継続の決定(2021年〜現在)
原作者の逝去: 2021年9月、原作者・さいとう・たかをが膵臓がんのため逝去しました。
「継続」の遺志: さいとう氏は生前、「ゴルゴ13は自分自身ではなく、読者のものだ」とし、作品の継続を望んでいました。
制作体制の移行: さいとう・プロは、氏の遺志に基づき、脚本、作画、リサーチの分業体制をさらに強化し、「さいとう・たかを」というブランド名のもとで『ゴルゴ13』の連載を継続することを発表しました。これは、日本の漫画界では異例の試みであり、作品の歴史と人気がいかに強固であるかを証明しています。
まとめ
『ゴルゴ13』の歴史は、57年以上にわたる連載と、それを支えたプロフェッショナルな制作システムの歴史です。主人公デューク東郷の揺るぎない冷徹さと、世界情勢を切り取る硬質なストーリーテリングは、日本の劇画・漫画文化において、他に類を見ない一つの到達点となっています。